三浦綾子(新潮文庫)
登場する地域:旭川、名寄、和寒

明治時代、士族の家系に生まれた「信夫」がキリスト教を信仰するに至るまでが、幼少期から青年期を通して丁寧に語られる。また、彼を取り巻く人物が魅力的だ。美しく賢い母、明るく誠実な友人と剛毅で寛大な上司、大病を患いながらも健気に生きる可憐な恋人。彼らと信夫が信じ合い、支え合いながら生きていく。
その合間合間で、作者は信夫の短命を示唆してはいるのだが、可憐な恋人が大病からようやく救われた時点で読者は油断してしまうだろう。信夫は、裏切り者に背中を押されるのではない。彼が信じ、彼を信じた人々との、温かい人間のつながりのひとつひとつが、皮肉にも巧みに最終の地に誘導していくのだ。
最初に読んだとき、私は後書きを読まなかったから気づかなかったが、何年か後に「塩狩峠の事故から百年…」という新聞記事を目にして、主人公の死に様が事実に基づくものだと知った。
2022年は「塩狩峠」の作者三浦綾子生誕100年を迎える年である。「塩狩峠」はこの冬、再び手に取りたい本だ。