小檜山 博(河出文庫)
登場する地域:滝上、苫小牧 他

本書は1999年から2004年までJR北海道の車内誌に連載された内容を書籍化したもの。筆者自らの人生を書き綴ったエッセー集。
筆者は福島県から北海道に渡ってきた両親の下、1937年、滝上町に生まれる。両親に六人兄弟、兄の嫁も同居し、一家の大黒柱である父は家計を支えるため仕事を掛け持ちながら暮らしていたが、お金のやりくりは大変厳しく、貧しい家庭環境の中で育った。
自らの過ちも醜い心もさらけ出し、具体的な描写で紡ぎ出される文章にはその時代と場所の間近で一連の場面を見ているような錯覚に陥る。エッセーの一つひとつは4ページほどの短い文章で気軽に読めるものだが、その読後に心に残されるものは決して小さくはない。作者が経験した人と人との関わりを記したエッセーには、胸をぎゅっと締め付けられるような切なさを感じさせる話もあれば、くすっとするような笑いを誘う話もある。
私が心揺さぶられるのは、滝上から出て苫小牧へ進学した筆者が高校卒業に際し、貧しい実家からなかなか仕送りが届かず卒業が延期されてしまう時のエピソード。ここで触れた後輩の優しさへの思いと、数十年後、後輩と再会したときの会話。善意の中に人の温かさをかみしめさせられる。
昭和·平成を北海道で過ごした庶民の生活を垣間見ることができる資料として、また、道民が体験した人情話を集めたものとしての価値を見いだせるのが本書である。