岡田 敦(インプレス)
登場する地域:根室市

「ユルリとは何か」「果たして幻の島は実在するのか」――そして、題名に掲げられた「エピタフ」とは何を意味するのか。
そんないくつもの疑問符が、読前の私の思考に静かに波紋を描いた。
どうやら、私の暮らすこの「根室」という土地には、まだ私の知らぬ時間と記憶が、深く沈殿しているらしい。
その見えない層に触れたいという衝動が、私の手をこの一冊へと導いた。
ページをめくるうちに、私は「島」からのかすかな囁きを聞いたような気がした。
それは、風の声であり、馬の息づかいであり、そしてかつてこの地に生きた人々の記憶が呼び起こす、遠い残響でもあった。
本書は、写真家・岡田敦が「幻の島」と呼ばれるユルリ島を訪ね、その地に生息する馬たち、そして島を離れてなお心を寄せる人々の声を丹念にすくい上げた紀行である。
ページの間に挿まれた写真は、単なる記録を超え、言葉の余白を満たすもう一つの言語として機能している。
静謐(せいひつ)と荒寥(こうりょう)が交錯する風景の中で、人と自然、記憶と忘却の境界が揺らぎながら、読む者に語りかけてくる。
この本は、ユルリという島を通して「生」と「喪失」を見つめ直すための、ひとつの“碑文(エピタフ)”である。