安部譲二(講談社)
登場する地域:北見

明治新政府は、ロシアの南下政策に対抗するために「蝦夷地」を「北海道」と改め、中央道路などのインフラ整備に着手した。激動の国内は、士族の反乱などで国賊にされた者たちの犯罪が増加し、監獄の維持費用も増加していく。政府は、囚人たちを過酷なインフラ整備に従事させる。工事は昼夜を問わず行われ、死者の多くは、道端にそのまま「鎖塚」として埋葬される。当時、この道路開削に携わった囚人たちが、現在の北海道の繁栄をどれだけ想像しただろうか。今の繁栄は、彼らの犠牲の上に成り立っている。
時代小説である本書は、網走―北見峠間の道路工事が舞台になっている。旧御家人である主人公、秋川鉄之介もその工事に携わる囚人の一人である。小説では伊藤博文他3名の政府首脳は、「工事が終われば解放する」という約束を囚人たちに信じさせ、彼らを労働力として使う。しかし、その約束は反故にされ、皆殺しになる。作者はそんな非人道的な時代に翻弄された囚人たちの官への憎悪と怒りを小説に描く一方で、ちょっとしたロマンも描いている。アイヌの酋長の娘、トウルシノと秋川鉄之介との恋愛である。小説はそんな作者の繊細な情感をも感じさせる作品の一つだと思う。