川越宗一(文藝春秋)
登場する地域:樺太、江別市

19世紀後半、縦糸として「樺太・千島交換条約」によって故郷樺太を追われ北海道の対雁(ついしかり、江別市)に移住させられた樺太アイヌのヤヨマネクフと、横糸として露国に奪われた祖国ポーランドを解放するために「皇帝暗殺計画」に加担し流刑となったピウスツキとの両者が、樺太で運命的な出会いを経て、民族研究と共にアイヌの「学校」建設など、紆余曲折の歴史ロマンを織りなす「大群像劇」の小説である。
欧米列強の帝国主義の猛威の時代、抗する日本は明治維新後、中央集権化・富国強兵策を断行し、アイヌ民族を文明の欠落した「土人」と蔑視し、「同化」政策の下、「文明」を強制されるヤヨマネクフは、「アイヌ=人」の自覚を忘れず、常に「熱」を発しアイデンティティを求め、「故郷喪失に代る新大地の発見」を目指す南極探検にも参加する。
一方、ピウスツキは、絶望の地で虐げられた少数の民から「熱」を享受され民族学研究に没頭し、地上に「支配される民は存在せず」という信念の下、祖国再興を願って祖国に帰還する。両者の共通点は多いが、決定的な差異は明確だ。大隈重信の「世界は弱肉強食〈摂理〉」故にポーランドは力が足りぬから故郷を喪失したという挑発に対してピウスツキは「人の世界の中の〈摂理〉、そのものと戦う」と祖国解放を公言し、同じ「戦う」の論理で応える。かたや、ヤヨマネクフは、大隈の摂理に対して「俺たちは適応する」「強弱も優劣もない」「生まれたから生きていくのだ」と確固たる矜持の自覚の下「平等と人間尊重の論理」で答える。この隠された文明観の差は圧巻。ぜひ一読を乞う。