吉村昭(講談社文庫)
登場する地域:月形、標茶

『赤い人』は樺戸集治監の開設から廃監までの38年間を綴った作品である。タイトルの「赤」とは囚人たちの獄衣の色をさす。これであれば囚人たちが脱走しても目立ちやすい。
石狩国樺戸郡須倍都太(すべつぶと)に建てられた樺戸集治監。ここでの立地を決め初代典獄となったのが月形潔であり、これが月形という地名の由来となっている。
囚人たちの中には殺人や強盗を犯した者もいれば、いわゆる国事犯も少なくなかった。自由民権運動が高まりを見せていた頃である。
当時の監獄の目的は懲戒にあった。囚人らに耐え難い苦役を与えることで再び罪を犯そうとの悪念を彼らに生じさせないこと。その点で北海道は最適の地でもあった。彼らは森林の伐採、道路の開鑿(かいさく)、採掘などの厳しい作業を強いられた。
作品中では囚人たちがやたらと皇族の安否を気にするシーンが見られる。仮に皇族が亡くなった場合大赦令が下される可能性があるからだ。
また、北海道の冬は厳しい。房内は寒いため囚人たちは身を寄せ合って寝た。それが彼らの性衝動をかき立て、性行動による事件もしばしば起きている。
囚人たちと看守の間には絶えず緊張状態があった。失態を犯すと厳しい処分を避けられない看守たちは当然囚人たちに厳格な態度で臨む。そのことが看守殺害事件に発展した事例もあった。だが、犯人たちは捕まり斬殺される。その肉体が細かく切り刻まれて監獄内の囚人たちにさらされるシーンには震撼させられる。