原田マハ(集英社文庫)
登場する地域:札幌、小樽、他

昨年末、二年ぶりに躊躇いながら帰省した。この御時世、旅をしたくてもできない人は大勢いる。時間やお金に余裕があっても、旅に出られない人がいる。たとえその行き先が故郷であったとしても。
本作の主人公は、売れないタレント「丘えりか」、通称「おかえり」。彼女は依頼主に代わって旅をし、その成果物を届ける旅屋だ。礼文島出身の彼女は、理由あって北海道への旅の依頼だけは固辞し続けてきた。その彼女が今回、意を決して北の大地へ旅に出る。依頼主の思いと「丘の上の人物」への伝言を携えて。丘があるのは、彫刻家イサム・ノグチがデザインしたモエレ沼公園だ。札幌や小樽の名所も登場し、読み進めていくうちに「おかえり」と一緒に旅をしているような気分になる。
同時に「ふるさと」について考えさせられる。彼女の言葉を借りるなら、「ふるさとっていうのは……なんていうか、生まれ育った場所のことだけを言うんじゃないってこと」。「ただいま」と言って帰ることができる「ふるさと」がある人は幸せだ。そこにはきっと「おかえり」と温かく迎えてくれる大切な人が待っているから。
キュレーターでもある著者は、アート小説の名手である。その一方で注目すべきは、彼女の書くお仕事小説だ。「おかえり」のように、不器用だが自分の仕事に一生懸命で、誰かを笑顔にする、人間力あふれる直向きな生き方が胸を打つ。是非、シリーズ一作目の『旅屋おかえり』とあわせて読んでいただきたい。誰にも気兼ねせず、行きたいところに、会いたい人に会いに行ける日が再び訪れることを願いながら。