坂本直行(ヤマケイ文庫)
登場する地域:広尾町、札幌市他、旭岳や黒岳などの道内各山

「山はどこから眺めても、またいつ眺めても美しいものだ」。この筆者の言葉に思わず頷く。日高山脈の見える十勝に住む、筆者の「山愛」が伝わる言葉だ。今外に出て四方を眺めると、どこかしらの山の稜線が目に入る……これは北海道の多くの場所で可能ではなかろうか。本書は、山が私たちのそばにある、それが幸せだということを教えてくれる。
筆者坂本直行は自らを戦前開拓民と称す。本書は筆者の山行の様子を語ったエッセイ集だが、文章と同じウェイトで、山の風景や植物、人々の様子を描いたスケッチを収めている。いわゆる「画文集」である。写実的な植物や風景のスケッチからは、筆者の見てきた北海道の自然の景物が私たちの眼前に広がる。そして、少々デフォルメされた人々のスケッチから開拓を担った人々の大らかさが伝わってくる。
一方、北海道の開拓の歴史、日本の歩みの暗部も文章は伝える。漁岳登山の帰途、タコ部屋を脱走した労働者に食料を恵んだ話、敗色濃厚な戦時下に意を決し石狩岳登山に臨んだ話などからは、今日私たちが北海道で生活できることの「重み」を自覚させられる。
斜里岳登山口の開拓農民と出会う話に描かれた、同じ「開拓」という志を抱く先人たちの心の交流。今日の私たちには信じられないような、「支え合い」、「助け合い」の姿が北海道の歴史の中にあった。私たちは、こうした人々に拓かれた北海道に住んでいる。そのことは誇っていいと思う。