有島 武郎(岩波文庫 他)
登場する地域:倶知安

50年程前の高校生にとって、夏休み読書感想文の定番は、短編でテーマ性のある著名な作家の小説。例えば芥川「トロッコ」「蜘蛛の糸」「芋粥」、川端「伊豆の踊子」、三島「潮騒」などと並んで有島武郎の「生まれ出ずる悩み」「小さき者へ」などが本屋の店頭に並んだ。特に有島は北海道に縁の深い作家。ためらわず「カインの末裔」を選び、函館から帰省する7月末、私は札幌行の函館本線夜行普通列車に乗った。夜が明ける頃、比羅夫、狩太、倶知安を経て、余市からは行商の逞しいおばさんたち一行も乗り込み、風景と土地の人々との新鮮な体験を得た。
バッグの中の岩波文庫―無名の小作人である主人公広岡仁右衛門の風貌と姿かたちは、力強く簡潔な筆致から本能的な「異形の者」として容易にイメージされる。冬を目前にして倶知安の市街地からニセコに向かう尻別川沿いの農場での一年余の小作農生活で赤ん坊も馬も失い、小屋に火を放って去る夫婦の前途は暗黒地獄。100年後の様変わりした様子からは想像もできない。
明治の中頃、父方の祖父は高知中村、母方は富山高岡から北海道に渡り、開墾を始め、小作人でなかった故に、運命を自分の手で切り拓き、そして現在の私がいる。