外岡 秀俊(河出書房新社)
登場する地域:U市(夕張)、函館市、札幌市、小樽市、釧路市

「U市は札幌から二時間汽車に揺られ、そこから私鉄に乗り継いで三十分ほどの距離にある小さな都市で、世帯のほとんどが何らかの形でU炭鉱に関わっている」。主人公は炭鉱の事故によって父を亡くし、中学を卒業後U市を出て集団就職により上京する。貧困ゆえの都会での生活、職場の人間関係の苦悶、いさかい、幼なじみとの再会、、、そして恋。5年の歳月を経て彼は故郷に戻ることになる。
これまでを回想し、あらためて自分を見つけるための「北帰行」。石川啄木の作品と自らを重ね合わせその足跡をたどる岩手、青函連絡船、函館と、情景のイメージがふくらむ。
1976年第13回「文藝賞」を受賞したのは、札幌出身の著者が東京大学在学中のことである。骨太な構成のなかに繊細さが印象的なのは、現実を見据える批判性と、短歌などをとおして自問自答する叙情性によるからだろう。社会のありようを捉えて思考する青年の描写に、後の新聞記者としての片鱗が覗く。
著者は現在、朝日新聞社を退職しフリーのジャーナリストとして活躍。中原清一郎名で文筆を再開している。
新装版の表紙イラストは、当時の国鉄車両の硬い椅子が懐かしい。座席にはぽつんと本が一冊。旅は続いている。