櫻田智也(東京創元社)
登場する地域:長万部町

世の中には予測ができない伏線回収やレトリックで、読者を驚嘆させるミステリー小説が数多くある。ただ、そこで描かれている舞台は都市部や郊外に集中し、北海道民である我々が情景などを想像しながら、読み進めることは容易ではない。
そこで、今回紹介させていただく小説は北海道を主な舞台にしているミステリー短編小説集「蟬かえる」に収録されている「ホタル計画」である。ぜひ、豊かに描かれている北海道の情景を思い浮かべながら、筆者独特の唸るようなレトリックに陶酔していただきたい。
ある日、サイエンス雑誌「アピエ」の編集長である斎藤に一本の電話が入った。「繭玉カイ子さんがいなくなりました」。その声の主は小学生ながらアピエの熱狂的読者であるナニサマバッタからであった。斎藤にとっては、昔ライターとして面倒を見ていた繭玉カイ子の失踪を聞き過ごすことはできず、繭玉カイ子が失踪前に生活しており、ナニサマバッタが暮らしている北海道の大地を目指す。その北海道で次々と明らかになっていく繭玉カイ子の失踪の過程、理由、失踪後の行方、そして最後に待っている謎の少年ナニサマバッタの正体……。
実は私は筆者に一度お会いしたことがある。とても印象深く現在でも憶えているのが「なるべく人を殺さないミステリー小説を書きたい」という一言だ。筆者が描く本小説は日本の中でも数少ないやさしいミステリー小説とも言えるかもしれない。