三浦綾子(新潮文庫)
登場する地域:上富良野

大正15年5月、十勝岳が大噴火を起こし、その火砕流は巨大な泥流となり、10キロ離れた上富良野町の畑や開拓集落を飲みこんだ。
三浦綾子の『泥流地帯』は、大正6年から噴火までの9年間を描き、『続泥流地帯』はその後の2年間を描いた小説だ。主人公兄弟、拓一、耕作の小学生時代から、20代前半までの人生を軸に、十勝岳噴火前後の上富良野町の様子を、誠実に、克明に記録している。
2010年、札幌市で開催された全国高等学校国語教育研究連合会の第43回研究大会では、火山研究の世界的権威、岡田弘氏が、「三浦綾子記念文学館」特別研究員の森下辰衛氏と対談し、泥流地帯の火山噴火の描写が実に正確であり、貴重な記録にも等しい価値を持つものだと指摘している。また、主要な登場人物は三浦綾子の創り出した架空の人物だが、それ以外の多くの人物は実在した人々であり、地名も、出来事も、事実に基づくものがほとんどなのである。森下氏は、三浦綾子の取材、執筆活動を追跡し、いかに多くの取材のもとに、彼女が人間の真実を記録しようとしていたかを明らかにしている。
巨大な災害に遭い、家族を喪い、開墾した村を失い、それでも復興しようとする人々の活動や、大正末期の社会構造や差別、さまざまな苦難がこれでもかと押し寄せる中で生きる主人公たち。それらが話の都合ではなく、事実あったものとして描かれ、記録されていることの重みを感じずにはいられない。