澤田展人(中西出版)
登場する地域:札幌、東京

ここには4編の小説が収録されている。ここでは表題作「アジアのヴィーナス」のみを紹介したい。
米倉ミサキは定時制高校の3年生。やくざの伊三夫とフィリピン人のシンシアとの間に生まれた。来日して18年にもなるが日本語がたどたどしく、商売向きでもないシンシアに我慢ならない父親は半年前に彼女を追い出してしまった。
その一方で伊三夫は、娘を退学させて東京に連れて行き、その成熟した身体を武器に「アジアン・ヴィーナス」として金持ち相手の売春をミサキに強いる。父親の横暴に耐えられなくなったミサキは自分を救い出してくれた藤崎正平と共に東京を逃げ出して札幌に帰り、生まれた子どもを含めひっそりと三人の生活をしていた。
だがやがて、二人の居所を見つけた伊三夫が現れる。彼は瀕死の状態だった。ミサキはシンシアもここに呼ぼうと考える。今こそ二人で伊三夫を呪詛(じゅそ)するチャンスだと思ったのである。シンシアが老人施設で働いているらしいという情報を得ていたミサキは、正平にシンシアを探し出してくるよう頼んだ。
ところが、帰ってきたシンシアは伊三夫に対して恨みつらみの言葉を吐かない。それどころか失踪した夫の最期まで行動を共にした。
シンシアは老人施設でお年寄りの下の世話もしており、「うんちとり名人のシンシア」と呼ばれていることに誇りすら抱いていた。
タイトルの「アジアのヴィーナス」はミサキのみならず、シンシアもまたその一人であると作者は言いたかったのかもしれない。