加藤多一(童心社)
登場する地域:滝上町

札幌市職員として「芸術の森」建設にも関わるなどした異色の児童文学作家 加藤多一 氏の作品。池田良二 氏の版画で絵本として発刊されているが、少年時代を過ごしたオホーツク管内滝上町の自然を原風景とし、その中に沖縄戦で自身の兄を失った理不尽な思いを巧みに描いた作品で、子どもに限らずあらゆる世代に「家族」「愛」「戦争」について考えさせる構成となっている。
本編には「北海道」の文字は一度も表出されていないが、「ふぶきの夜に、子馬は生まれた。」の冒頭から読むものの多くが北海道を感じる作品となっている。詩のように流れる美しい文体も北国の美しい情景を想起させるが、後半は一転、家族の反目と兄「カツトシの死」という終焉に向かう。
不幸を生む馬として父に捨てられた子馬「ソンキ」を屈強な父に抗して救ったカツトシだが、その救った「ソンキに蹴られて」死んでしまう。このいきさつの真相は二十年後の母からの手紙で私へ知らされ、「馬と、体格の悪いひとりの青年とを殺したのは、いったいだれなのだろう」の明確な戦争批判へと結ばれる。
なぜ父は生まれたばかりのソンキを殺そうとしたのか? カツトシはなぜひ弱なソンキを身を挺して救ったのか? なぜカツトシの愛したソンキを父は射殺したのか? そして真実を20年間「こらえにこらえて…」きた母の胸中は? こうした家族の不幸をもたらした元凶は何なのかを、ぜひ本編をご覧になって、身近な子どもたちと考える機会を持っていただければと思う。