西村 武重 (ヤマケイ文庫)
登場する地域:中標津

縁あって道東の中標津町で10年ほど暮らした。著者が拓いた養老牛温泉にも何度か足を運んだことがある。シマフクロウで有名な山深い温泉地という印象であったが、その始まりがたった1人の青年によるものであったことに驚く。
本書によると、現在の中標津町市街地の世帯数は1万戸を超えるが、著者が「ヨローウシ」に入山した1916(大正5)年はわずか2戸8名。未知の根室原野に憧れ、天塩国和寒原野の農民25戸50余人の団体移住に参加した著者は、彼の地に旅館を建て私費で道路を造る。当時機械化はほとんど進んでおらず、ほぼ人力での開拓であり、その苦労は計り知れないが、著者の言葉に悲壮感はまったくない。
大好きな狩りに明け暮れ、獲物を求めて何日間も野山(時には雪山)を駆け巡る著者の姿は、現代人にはない生命力と躍動感にあふれている。「生きる」ことをこれほどまでにリアルに感じられる生活に羨ましさを感じつつも、現代とは比較にならぬほどの自然の脅威に果たして対峙できるのか、自らに問わずにはいられない。