河﨑 秋子(新潮社)
登場する地域:白糠

河﨑秋子が『ともぐい』で直木賞を受賞した。私が河﨑と初めて出会ったのは、2013年桜木紫乃の直木賞受賞祝賀会が札幌で開催されたときである。見知らぬ女性から挨拶を受けた。「私は別海町の河﨑秋子と言います。兄が高専で大変お世話になりました」。その翌年彼女は『颶風の王』で三浦綾子文学賞を受賞する。
河﨑とは『颶風の王』をめぐっての公開対談もした。腰が低く率直、こちらの質問には的確な言葉が返ってくる。頭の回転の速い人なのだろう。
『ともぐい』は白糠の山奥で一人狩猟生活をしていた「熊爪」という男の物語。河﨑はこの人物を主人公とする小説を14年前に試みていた。その点で『ともぐい』は彼女にとって原点回帰の作品ともいえる。熊の生態に関する描写は生々しい。そして好敵手とも言うべき熊との闘いに命を燃やした彼は、最終的にその熊が死んでからは「生ける屍」の趣すら感じられる。
もともと彼は捕獲した肉を白糠の街中にある商店に売りにいくことで生計を立てていた。それ以外は人との接触を避けていたのである。ところがその商店が斜陽となり、そこにいた盲目の娘陽子(彼女は主人の子を宿していた)を連れ帰って共に暮らす。陽子は出産しその後熊爪の子も宿す。だが、二人の間にあったのは愛情とも言い難い。陽子もまたある種の野性を備えた人物であった。彼女との暮らしそのものがタイトル「ともぐい」を連想させるものであったと言えそうだ。