五木 寛之(講談社文庫)
登場する地域:江差町・函館市

累計発行2000万部超と言われる「青春の門」だが、第7部「挑戦篇」で北海道(江差町・函館市)が舞台となっていることは意外と知られていない。
1960年12月。東京・山谷で起きた死亡事件を端緒に学生運動の内紛に巻き込まれた伊吹信介は、友人との約束を果たすために単身江差へ渡る。その後を追う学生運動の活動家との鴎(かもめ)島での格闘シーンから始まる物語は、所々に叙情的な江差追分の歌詞を挟み込みながら、地元の追分師匠海野、その弟子の混血の美少女襟子、謎の多いオーストラリアからの研究者のジョンらを巻き込みながら大きく展開していく。
後半は函館へ場所を移し、北方領土問題を絡めた「レポ船」を巡る闇組織との争いへと進んでいく。
学生運動や高度成長期を背景にしたストーリーは動きが激しく、スケールも大きい。この大きさを時代と共に支えているもう一つが「北海道」という舞台。特に前半は当時の江差を知る人が読めば、自然描写だけでなく、「あの店」「あの人」と、モデルとなった町並みや人物を容易に思い起こせるくらい忠実に描かれている。
他にも寒川光太郎や八木義徳の二人の芥川賞作家も江差に舞台を借りた作品を描いているが、江差の自然と文化・歴史が、偉大な作家達の創作意欲を刺激しているように思えてならない。