喜多みどり(角川文庫)
登場する地域:札幌

恋人の裏切りに遭い、失意のまま転勤先の札幌に移り住んだ25歳のOL、小鹿千春。慣れない土地での暮らしに疲れていたある日、偶然小さな弁当屋「くま弁」を見つける。そこで差し出された「鮭かま弁当」を食べて元気を取り戻したことをきっかけに、「くま弁」に通うようになった千春は、やがて店長の熊野、店員のユウ、常連客の黒川らと少しずつ関わりを深めていくのだった……。
一話完結の連作小説だが、タイトルに使われている「甘納豆赤飯」「牡蠣めし」「山わさびおにぎり」といったメニュー名だけでも、わかる方はニンマリしてしまうだろう。「くま弁」自体が地下鉄「豊水すすきの」駅の近くにあると明言されており、丹念な取材に裏打ちされているであろう札幌の街や季節の描写は、とても正確でリアリティがある。そこに、実に美味しそうなお弁当の数々の描写や、それを食べるに至るまでの登場人物ひとりひとりに秘められた物語が、まるでお弁当の包みをふんわりと開くように展開されてゆく。
札幌に住んでいる方はもちろん、かつて住んでいた方、これから訪れる方にも大いにおすすめしたい。読み進めるほどにお腹が空いてくるが、心はほっこり「満腹」になれる一冊だ。