乾 ルカ(角川文庫)
登場する地域:照羽尻島[天売島]

1つの失敗をきっかけに不登校になった有人は、憧れの叔父の強引な勧めにより、北海道の照羽尻島の高校に通うこととなる。照羽尻島は、北海道北西部の日本海に浮かぶ「天売島」がモデルとなっており、私もかつて天売島にある高校に勤務していた。
有人は、フェリーから島を初めて見た際、「なにもかもが色褪せている」と感じる。「未来の自分を想像してみないか」と問う叔父。それに対して、「未来」は潰えたと考える有人。寂れたその景色も相まって、有人の目には、絶望の果てにたどり着いた未来のない辺境の地、「奈落の底」に見えたのだろう。本小説は、その「奈落の底」で「成長」する有人の物語である。
受け入れる。気にする。大事にする。都会の喧騒の陰に隠れたそのような人の温かさが島にはあった。最初は困惑し、頑なだった有人も、島の人々との関わりの中で「未来」と向き合いはじめる。この物語は、人の温かさを今も大事に抱きしめる人々によって支えられている島だからこそ紡がれるのである。一見未来のないように見える「奈落の底」は、風が吹く「未来」に羽ばたくための助走の地だったのだろう。この小説は、「忘れ去ってはいけないもの」を残し、大事にする地域を知ることができる一冊である。