あべ弘士(BL出版)
登場する地域:旭川

本書は、宮沢賢治が残した心象スケッチ「旭川。」をもとに、絵本作家のあべ弘士氏が創作を加えた絵本である。
1923年8月2日、4時55分。当時、勤めていた農学校の生徒たちに就職先を斡旋するために向かった樺太への道中、賢治はひとり旭川の地に立った。昼12時までの短い滞在時間で、賢治は辻馬車を走らせ市内で目にした風景を一篇の心象スケッチとして書き留めている。それが「旭川。」だ。
六條にいま曲れば/おゝ落葉松 落葉松 それから青く顫えるポプルス
この辺に来て大へん立派にやってゐる/殖民地風の官舎の一ならびや旭川中学校
賢治らしい樹木の描写がある。「落葉松(カラマツ)」は、日本の針葉樹のうち唯一の落葉樹であることから「落葉松」と書くことがある。「ポプルス」とは、ポプラのことであろう。ラテン語のpopulus(ポプルス)は、「人々、共同体、国民」などを意味し、ポプラの由来とされている。
詩篇にはない創作シーンとして、馭者と賢治の会話に空を飛ぶオオジシギの話題が出てくる。
「ずっと北の樺太まで行くやつもいるらしい」
「樺太ですか……。むこうでまた会えるとうれしいなあ」
オオジシギは、夏季に北海道、サハリン南部で繁殖する鳥だ。「よだかの星」という童話がある。草稿の初題では「よだか」となっていたが、賢治は、表紙の題名を「ぶとしぎ」に変えている。ぶとしぎとは、オオジシギのことだ。賢治は、最果ての地でオオジシギと再会できただろうか。