萱野茂(ちくま学芸文庫)
登場する地域:二風谷(平取町)

アイヌ出身者としてはじめて国会議員となった萱野茂氏が、約70年の暮らしの中で体験してきたアイヌの行事や出来事をまとめたのが、この本だ。
衣食住や冠婚葬祭、イヨマンテ(クマ送りの行事)といった儀式など、内容は実に豊かで多岐にわたる。私自身北海道に暮らしていながらアイヌ文化についてほとんど知らないが、そうした人にもわかりやすくまとめられており、ユーモア溢れる体験や神秘的な物語などを交えてその魅力を伝えている。
自然からの「恵み」を他の動物と分け合い必要な分だけいただく。いただいたものはすべて無駄なく大事に使う。アイヌ文化の根底にある考え方だ。また、アイヌには「カント オロワ ヤク サク ノ アランケプ シネプ カイ サム」という言葉があり、これは「天から役目なしに降ろされたものは一つもない」という意味だという。札幌の街でも野生動物が出没し対応に苦慮している。かつてのような共生はもはや難しいのかもしれないが、人間にとっては有害とされる生き物も、自然の中では重要な役割を担っているということを決して忘れてはならない。
自然に対する知恵と畏敬の念がうまく融け合っているアイヌ文化の在り方は、私達が「自然との共生」を改めて考える上でひとつの指針となるに違いない。アイヌ文化の紹介にとどまらず、私達の暮らしを見つめ直すきっかけを与えてくれる一冊である。