大崎善生(中央公論新社)
登場する地域:札幌、旭川、小樽、帯広

本書は6編を収録する短編集で、随所に北海道ゆかりの人物が登場する。作品ごとに趣向は異なるが、当欄では冒頭作「サッポロの光」を紹介したい。描出される町の風景や空気、札幌の少年の思いは確かに札幌オリンピック当時のものである。
主人公は東京で編集業を営む山口。東京のバー「グロウイング」にはビル・エバンスのソロが流れる。イラクでの戦争が終わった後もニュースでは毎日、兵士の死者数がボールゲームのスコアのように伝えられている。
仕事に疲れた山口がビールを呷っているとき、隣り合わせた男と会話を交わすことをきっかけに、過去と現在が交錯するほろ苦い物語が始まる。あらゆる記憶を集めた湖のような場所の底に現れた沢田信彦。山口は、三十年も音信不通だった沢田の最後の一ヶ月を知ることになるのだ。
「“虹と雪のバラード”が流れ、地下鉄やビル建設の槌音が響き渡っていた。 そんな時代の札幌を、多感な中学生として僕も沢田も生きたのである。」 作者の大崎善生は1957年、札幌市生まれ。淡い色彩と静かな空気をトーンとする作風の作家が珍しくも、こみ上げる思いを隠さずに書き残している。その無垢な詩情の断片を拾い読むことができるのもこの作品の見所の一つである。