桜木紫乃(角川書店)
登場する地域:釧路

今春、釧路を訪れた。夕暮れ時、高校時代の通学路をたどった。幣舞橋を渡り、出世坂を上る。幣舞公園から街を見下ろす。北大通りの街灯の光が駅まで一直線に貫いている。きらびやかな明かりは、かつてのこの街の繁栄を見せているかのようだった。
桜木紫乃の「俺と師匠とブルーボーイとストリッパー」は釧路のキャバレー「パラダイス」が舞台。表題通りの登場人物たちが主人公の「俺」章介とキャバレーのオンボロ寮で共同生活を行う。ドサ回りの芸人たち。悲しみを包み込んだ彼らの真っ当な生き方が主人公を成長させて行く。読者は、終わりのある旅を慈しむように彼らの日々を追体験する。どの優れた小説も特殊を描きながら普遍に至る。この小説も、もちろんその例に漏れない。昭和の釧路を描きながら、ノスタルジーに寄りかかったりはしない。
それは分かっている。分かっているが、釧路に関わった人間ならば、そこに凋落する街への愛惜を感じない訳にはいかない。かつて釧路の高校に勤めていた頃、「夜のクラブ活動」と称して1度だけあのキャバレーに行ったことがある。ミラーボールの散乱する光の中、漂う酒と煙草と香水の匂い。目の前に広がるまばゆい光の奥に、作中に生き生きと登場する消えた百貨店やキャバレーの姿を一瞬幻視したような気がした。