三浦 綾子(小学館文庫)
登場する地域:旭川

「あまり知られていない三浦作品を」とお願いし、三浦綾子記念文学館に推薦していただいたのが短編5作品を収めた本書である。標題の「毒麦の季」は旭川が舞台で、人々の心にまかれている毒麦の種が家族を破滅に追い込んでいく小説だ。
仕事ができ頼りがいがあると思っていた夫が、長く婚外恋愛をしていた事が分かり、妻は傷つき狼狽する。しかし、夫は妻の父親もしていた事だと悪びれず、妻の気持ちなど全く意に介しない。小学1年生の達夫が見せる、一見あどけない視線や疑問が、大人たちの言動をあぶり出していく。それぞれに都合良く、自分を味方にしようとする父や母の意図が達夫には理解できない。両親の離婚の理由も、母が姉を連れて出て行った理由も理解できない。父子家庭に入り込み、気まぐれに自分をもてあそぶ父親の恋人を嫌いにもなれず、母の帰りを待っている。
5作品の中で幼い子どもが登場するのは本作品だけである。達夫の2歳年上の姉みちえは、子どもなりに親の事情を理解し、母の嫂とその娘である同い年のいとこの悪意をかわしながら母との生活を送る。層雲峡の火祭りで子どもたちに事件が起きて物語は閉じられる。賑やかな祭りの会場から離れ、父親に見つからぬように達夫を母の下に連れ帰ろうと必死になるみちえ。しかし、ふいに起きた事故で父親に助けを求めに行くしかない。
大人も子どもも、毒麦のある社会をどう生きていくのかと問われる作品だ。