札幌芸術の森美術館(マール社)
登場する地域:旭川市、阿寒町、音威子府村、札幌市

本書は2019年に札幌芸術の森で開催された「札幌美術展 砂澤ビッキ-風-」を記念して出版された美術書である。晩年の代表作である「四つの風」は同所の野外美術館に展示されているが、木彫という性格上、制作当時の原形はとどめていない。しかし、ビッキに言わせれば、生きているものが衰退し崩壊していくのは当然であり、自然は「風雪という名の鑿(のみ)」を作品に加えるものである。本書は彫刻が崩壊し姿を変えていく様子を克明に記録している点で大変貴重な仕事であると言えるだろう。何せ作者であるビッキの死後も作品は生成しており、その様子を当のビッキは知らないのであるから。
砂澤ビッキは旭川市近文で生まれ、父の死後阿寒湖畔に滞在し、木彫りの工芸品などを制作していた。やがて鎌倉を拠点にモダンアートの分野で活躍する一方、晩年は音威子府村筬島(おさしま)に移住し大規模な作品を手がけることになった。
私は音威子府の高校で勤務していたこともあり、日常的にビッキの作品に触れる機会に恵まれた。音威子府駅前にはかつてビッキが制作したトーテムポール「オトイネップタワー」が設置されていたが、「四つの風」と同様に倒壊し、今ではその一部が「エコミュージアム筬島」で大切に保管されて、「トーテムポールの木霊」と名を変えて公開されている。本書でビッキの作品に興味を持った方は、ぜひ筬島の地を訪れ、「風雪という名の鑿」が造形していく力を体感していただきたい。