西條奈加(PHP文芸文庫)
登場する地域:松前、他

数年前、帯広駅前にあった長崎屋で十勝の作家として西條奈加特集がされているのを目にした。彼女の最新作『六つの村を越えて髭をなびかせる者』は、日本史に登場する最上徳内の物語である。舞台は江戸中期、田沼意次の世。最上川のある出羽出身の徳内は蝦夷地見分隊に随行し、正確な地図を描くためにアッケシに向けて徒歩で現地を巡る旅に出る。その過程でアイヌの長や少年と交流し心を通わせながら進んでいく。彼が旅する北海道の地名やコタンの名前が出てくるたびに、自分もその土地を一緒に移動しているように思えてくるのが面白い。
徳内は、北海道の自然の脅威に、アイヌを虐げる松前藩や田沼失脚による幕政の変化など、さまざまな困難にぶつかりながらも親交を結んだ人々のために北を目指す。
「相手を尊重し、風俗や習慣の理解に努め、ひとつずつ親密を築いていく」。彼の血の通ったアイヌとの関わりは、現代の希薄な人との交わりの中で、人と人はどうしたら関係を構築することができるかを教えてくれる。手のかかることはしたくない。それでいてすぐに結果が出ることを求めてしまう私たちに、幾多の困難の中、相手を尊重してひとつずつ道を切り開いていこうともがく徳内の、アイヌや彼の周囲との人との関わり方から、学びや勇気をもらえる。またここ北海道でアイヌを尊敬し、彼らの置かれた状況と真剣に向き合った徳内の情熱に胸が熱くなる一冊である。