大沢 在昌(集英社文庫)
登場する地域:北方領土

北方領土の架空の孤島が舞台のフィクション。時は2022年、島にはレアアースの漂砂鉱床があり、採掘、製造するために設立された、日本、ロシア、中国の合弁会社の日本人が事件に巻き込まれる。
以前、私が「北方四島交流」で北方領土を訪れた際、湾岸に点在するロシアの工場や施設、ロシアの技術で島内に整備された道路、集合住宅を目の当たりにし、また、キオスク(売店)ではルーブルを使わざるを得ない状況に直面し、ロシアによる実効支配を肌で感じた。
2022年、現実の世界ではゴルバチョフ元ソ連大統領が死去。そのゴルバチョフ氏が提案し、1992年から始まった「北方四島交流」を含む「ビザなし渡航」について、ロシアは日本との合意を一方的に破棄してしまった。
小説の中で描かれている架空の島は、利権と欲望の渦巻く島として描かれ、真相解明のため、ロシア語と中国語が話せるロシア系クォーターが警視庁から送り込まれる。捜査権の無い中、真相を突き止めようとするその主人公は、時折、弱気になったり、愚痴をこぼしたり、人間味あふれる人物として描かれている。主人公が島のキオスクや食堂でする何気ない会話にも引き込まれ、文庫本(上・下)で800ページ(ハードカバーで650ページ)という長編も一気に読み終えた。