桜木紫乃(双葉文庫)
登場する地域:釧路、他

中年男性と駆け落ちした須賀順子の生きざまを、道立湿原高校時代の同級生たち、駆け落ちされた妻、さらには順子の母、それぞれの目を通してオムニバス形式で綴った作品である。作品は全6章、視点人物も年代も各々異なる。彼女たちはそれぞれの時期に順子と接する。
順子は夫との間に男の子を一人設けた。だが二人は入籍しておらず、夫が経営する食堂もぱっとしない。周囲の眼に彼女は不幸せに見える。だが、いつでも順子は自らを「しあわせ」と言って、笑顔を見せている。それが強がりのようにも見えない。順子のそうした姿を目の当たりにして、登場人物たちは自らの「しあわせ」について振り返らざるを得ない。ただし、その順子も駆け落ちした夫の元妻である幸福堂の女将さんを受取人とする保険を掛けていた。
やがて順子に病魔が襲い、余命幾ばくもないもない状態となる。もともと目に障害のあった息子には角膜手術が必要であった。自分の角膜が息子のために生かされることを語る順子の姿に悲愴感はない。再会した同級生に「順子、幸せなんだね」と尋ねられ、「もちろん」と高らかな声で答える順子。「しあわせ」とは何か。この作品はずっとこう問いかけている。