八木義徳 (小学館)
登場する地域:室蘭、札幌 等

『遠い地平』(1983年刊行)は、9編の短編で構成された自伝的連作小説だ。老境を迎えた筆者が、現在と過去を行きつ戻りつしながら、室蘭、札幌、樺太、満州、東京を舞台とした若き日の波瀾万丈の生き様を回想している。また、『劉廣福』(1944年)は、満州での経験をもとに一人の満州人を主人公に描いた痛快な作品で、1944年上半期の芥川賞を受賞した。筆者は、出征先の中国で行軍中に受賞の通知を受けている。
さて、1991年6月23日、室蘭ルネッサンスなる組織が主催した講演会が室蘭市のホテルで行われた。講師の一人は八木義徳氏である。当時、室蘭清水丘高校に勤務していた私はこの講演会の聴衆の一人だった。氏は、「芸術とは自己表現であり、文学者は言葉と文字によって〝オレはオレだ〟ということを伝える。一番大事なのは感性を磨くこと。そして、人間に執着し、人間の面白さを自分自身の言葉で表現することだ」と熱く語った。氏の、声・足取り・姿勢ともに、とても80歳とは思えなかった。講演後の座談会で氏が述べた、「今ほしいのは胸のときめきなのだ」という何とも艶のある発言が何よりも強く印象に残っている。
北方的な感性を自覚し、生涯にわたって私小説的手法にこだわり、「最後の文士」と言われた八木義徳作品の面白さを、ぜひ多くの方に味わっていただきたい。