渡辺 淳一(KADOKAWA/角川文庫、他)
登場する地域:紋別

ある年の1月、主人公の竹内美砂は、東京の自宅から流氷研究所のある紋別を訪れ、父親の友人に紹介された当所研究員である紙谷誠吾に流氷見学を依頼した。
「表面は静かでも、海の底は、動いているのです」
やがて、流氷を求めていた美砂の心は、過去を閉ざして静かに生きる誠吾へと惹かれていく。家族の反対を押し切って札幌に引っ越し、誠吾への愛に揺れ動く美砂と、かつて同じ女性を愛し、流氷の底に落ちていった友人の死を受け入れられないままの誠吾。
「流氷は彼方で止まったまま、まだ、行方を定めずにいるらしい」
オホーツクの流氷は遠くアムール川の淡水が凍って流れてきたものと言われているが、実際には、海水が凍ってできたものだ。結晶のような小さな氷が互いにぶつかり砕けながら結合して大きな蓮の葉のような形に変わり、これらが風によってぶつかり、重なり合いながら大きく成長を続ける。そして、風向きによって岸に寄ったり沖に遠ざかったりしながら、日によって変化する。
物語は、北国の四季のうつろいと並行して進む。
美砂と誠吾の出逢いからおよそ一年。その夜、紋別では波の音がしなくなった。新たな流氷がやってくる予感とともに、二人の長く静かな旅がはじまる。