有川 浩(講談社文庫)
登場する地域:札幌

猫みたいな生徒が増えたな、と思う。お弁当はひとりで食べ、友人たちと群れることはしない。ステイホームと黙食を乗り越え、ひとりでいることの心地よさを得たのかもしれない。かといって、人付き合いは下手ではない。自分がされたいのと同じように、他人の考え方を尊重できる。
この本は、猫が主体となり主人との同伴旅行を語るストーリーだ。北を目指す人にふしあわせなイメージがつきまとうのはなぜなのか。津軽海峡冬景色の影響か。この話も同じ風合いを持つ。主人公は銀色のワゴンの助手席に猫を乗せて、北へ、北へと目指す。北海道はやわらかな土と、紫と黄色の野の花で、足元のあやうい一人と一匹を受けとめる。
猫は、名前はまだないあの猫のように、実によく人間を観察している。冷静によく見て、「これだから人間は」と、ふらりとテレビの上に行ってしまったり、「もっとこうすればいいのに」と経験のないことを強みにして思ってみたりする。そのくせ、たまにそっと近づいてきて、こちらの足のあたりに尾を巻くようにして、ねぎらいの言葉をかけてくれる。それが、とてもうれしい。
気づけば猫ではなく生徒の話をしてしまった。とにかくこの本は、人間の生き様と猫の魅力がつまった一冊である。書道の授業、自由課題のもとで、ある生徒が何枚も書いていた半紙いっぱいの「猫」の字を思い出す。